Part 5 :

大会最終日

“Alls’ Well that Ends Well”

 

 ふくらはぎに走るなつかしい痛み。足がつった。気持ちの悪い目覚めとなった。丁度夜明けの頃である。DAMUさんが何もない状況で鼻血を出したりと、日本勢はそろそろ慣れない生活に体が支障をきたし始めていた。私は起きて、いつもどおり朝にシャワーを浴びた。

 そこにこの日本勢の宿泊部屋の戸を叩いて現れたのは、Larry であった。Larryは、今日まだダブルスの試合があるらしく、朝9時に会場に行かねばならない。日本勢と目的が一致したため、それでは朝8時のシャトルバスに共に乗ることにした。

↑Larryが来た。

↑今日のホテルロビー。

待ってる人、無し。

WiiUダブルス本戦、など

 昨日とは打って変わって、誰もいないロビー。8時のシャトルバスに乗ろうとしているのは、日本勢を除くとごく少数であった。なんということか。日本勢と一緒にいるので忘れていたが、3日目に試合が残っている人というのは、限られたプレイヤーだけなのだなあ。

 というわけで、本日は無事シャトルバス(無料)に乗って会場に向かった。暗いバスの中、冷たい座席に座り、上着を着たまま運ばれる。なぜか通路を挟んで隣にLarryが座り、今まであったことを話した。海外勢と話し込むと、必ず訊かれるのがOtoriさんとMikenekoさんの行方。水面下の需要をひしひしと感じた。

 それ以外でLarryと話したのは、主にファルコのこととZeRoのこと。LarryはスマブラXでApex2010を優勝したファルコであるが、今は新作でフォックスになっている。

「今のフォックスのボクシングに、昔のファルコの投げ連っぽさがある。」

と言っていた。逆に、日本では元ファルコ使いがダックハント使いになって「ファルコを背負ってるんですよ」と供述していた、というエピソードを話しておいた。また、ZeRoは今西海岸にいるため、Larryと会うことが多いらしい。ZeRoは本当に強いし、本当に研究熱心であるとLarryは語っていた。

「ディディーは最強とは限らない。でもアメリカ人は、ディディー使いになろうとも、ディディー対策をしようともしないんだ。その分の労力で、言い訳を考えるほうが好きみたいだ。」

と悔しそうに述べていた。

 こんなに長いことLarryと話したのは初めてであった。自分の憧れた伝説と会話できるというのは、ゲーマーの特権である。私がスマブラを始めた頃に、LarryはスマブラXでアメリカ最強のファルコとして君臨しており日本勢の前にも現れ立ちはだかった。その動画が残っていた。そしてその後も、全一であり続けた。これだけ業界が大きいのに、自分と同キャラの頂点にいる人物に会えるというのは、中々堪能できるイベントではない。

 勿体無い時間が過ぎて、バスは会場に着いた。乗っていたプレイヤーたち、全員降りて会場受付へ向かった。

↑受付

↑待つ人達。

TyrantやNairo,ZeRoなど。

↑朝ごはん。

ハンバーガーとコーヒー。

↑Nietono&Choco vs

Dabuz&Denti

 この日は、Shimitakeさんと共に現地の屋台で朝ごはんを摂取した。人がいないのですいており、注文しやすかった。こうしているうちに、Nietono&Chocoチームが配信台に呼ばれ、Dabuz&Dentiと対戦と相成ったため、そちらに合流した。相手はスマブラX時代のオリマー使いチームであろう。

 無事本日の緒戦を制したNietono&Chocoチーム。Nietonoさんはこのまま、シングルス(ベスト16)が呼ばれた。来ていたメンバーで随時始めているらしい。相手はAeroLink。テキサス勢である。名前に反してディディー使いであったが、ここはNietonoさんが貫禄の勝利を見せた。


 このように、3日目はWiiU日本勢の試合が惜しみなく配信台で行われるようになった。

↑日本ダブルス組

相談中。

↑シングルス。

DtN|Nietono vs AeroLink

↑Will&Vinnie

vs aMSa&Abadango

↑観客席Ayuha&

Liquid Hungrybox

 その一方で、aMSa & Abadangoチームも呼ばれた。ここは配信無しの試合であったが、Vex & Thunderstorm を破り、StaticManny & Phuzix チームに敗れた。そして敗者側へ。Will & Vinnieチームと対峙した。結果Abadangoさんは、シングルスでもダブルスでもWillを破った。ドンキーを操り、会場を味方につける強豪Willは、Apexでは強敵を喰うことがある。異国でただでさえハンデが有るのに、これほどの相手を安定して倒していくAbadangoさん・aMSaさんからは、アメリカ大会での適性とも呼ぶべきものが伝わってきた。この後、Ally & Boss というチームに討たれてはしまうが、ダブルスベスト16という堂々たる結果である。

↑Abadango vs

NinjaLink

↑aMSa & Abadango

がパックマン少年に写真をせがまれる。

↑笑顔で凱旋するMr.R,

配信台で頭を垂れるNairo

 慌ただしいスケジュールであるが、Abadangoさんはそのままシングルスの試合が配信台で呼ばれた。敗者側でNinjaLinkである。スマブラX時代は「?」使いでApex2010ベスト24に入ったりと、魅せプレイが在野の私の目を引いた思い出がある。今作ではロックマンを使っていた。パックマンを使うAbadangoさんは、この名誉を懸けたゲストキャラ対決に勝利した。そして試合後はパックマンファンの少年と写真をせがまれていた。

 このあと、配信台では勝者側が呼ばれ始めた。いよいよ大詰めの雰囲気が漂ってくる。観客席にちらほら見えるシルエットには、ビッグネームが並び始めていた。現在、勝者側に8人が残っている状態で、Mr.R vs Nairo がまずアナウンスされた。Mr.Rは、当のAbadangoさんを敗者側へパージしたシークである。かたや相手のNairoは数日前にNietonoさんを最終決戦で退けた大物である。大方「Apex2014王者のNairoが勝つだろう」という雰囲気で眺めていた。

 Nairo、沈む。結果は試合3本目で最後の下投げ→空上が刺さり、Mr.R勝利であった。Nairoにぬかりがあったわけではない。Nairoはシークの強さを知っていたし、このピットというキャラでの対シーク勝利実績もあった。Nairoは敗者側が呼ばれるまで、配信台近くの観客席で一人座り、フードで顔を隠していた。

 WiiU勢が会場で予想外の事態にざわつく中、次の試合が呼ばれた。敗者側で、VGBC | aMSa vs Boreal Ally である。勿論、配信台だ。先ほどの破天荒は一旦置いておいて、観客はこの二人の対戦に注目を切り替えた。

↑VGBC|aMSa vs

Boreal Ally

↑観衆。

D.Dsciple,Tyrant,Larry,MJGなど

 サイドベット(観ている試合に金を賭けること、勝者を当てる)では、ひたすら「Allyに$5!」「Allyに$10!」というコールが聞こえた。逆にaMSaさんの方を名乗りである客は中々現れない。サイドベットは、ビットとオファーが見つかって初めて成立する。自分がAllyに賭ける宣言をして、aMSaさんに賭ける相手が寄ってきてくれないと意味が無いのだ。後ろの野次馬共は、誰もがAllyの勝利を信じているのだ。

 Allyは強い、と相場は決まっていた。スマブラX時代から完成した動きで、遠征する日本勢に脅威として君臨して来た。それでいて当の本人は日本勢が好きでよく絡んでくれた。 Apex2014ではベスト8に入っている。 WiiUでは、シュルク・マリオを使い、アメリカ大陸では一世を風靡していた。aMSaさんはDXで強いということを知らないアメリカ人はいないはずだが、DXよりもX由来のプレイヤーのほうがWiiUで結果を残しているという現実が、眼鏡を曇らせていた。

 結果はすぐに露見した。2本連取でaMSaさん勝利である。熱狂というより驚き・困惑が会場に広まった。そして暫くして波乱の火が一旦冷めても、観客席はこの予想外の試合の連続にニヤニヤしてしまっていた。大会に来るような連中にとって「ビッグイベントで下馬評が覆る」というのは、待ちに待っていたご馳走なのである。カメラのアングルに収まりきらない会場を、次第に埋め始めたアメリカンな観客は、好物を堪能できて、心のウォームアップができていた。

↑VGBC|aMSa vs

CT MVD(正面)

↑VGBC|aMSa vs

CT MVD(横)

手前がDJ Arcatek。

 その後配信台では数戦はさんで、aMSa さんに次の CT | MVD が回ってきた。ここがベスト12であり、敗者側である。是の示すところは、ここを突破すればベスト8のお立ち台ということである。

 朝、ホテルの廊下でAbadangoさんが述べていた。

「ベスト12と、ベスト8は重みが違う。」

と。お立ち台:メインステージに進めるのはベスト8だけであり、確かに大会進行としても、このメンバーの扱いは一線を画している。

 かといって、相手のMVDも自動ドアで敵を通すわけではない。お互いに「勝ち」を得るためにApexに来たのであり、頭の中にあるのは目の前の壁を倒すことだけである筈だ。aMSaさんは遠征者であるが、MVDもフロリダからの遠征者である。セコンドには昨日私(とAlly)が対戦したDJ Arcatekがついていた。同州の者である。

 ゲッコウガ vs ダックハント+リトルマック。これまた絵になるキャラ同士の対戦。MVDが、2・3戦目を奪って逆転勝利した。お立ち台への切符を手にしたのはMVDであったが、aMSaさんの勇姿は少なくとも、ゲッコウガ好きの私の海馬体に長期記憶として刻まれた。

 

メインステージ

↑ダブルス勝者側準決勝。

Choco & Nietono vs

Mew2King & ZeRo

↑試合後。

さり気なく居る白いフードが

ムハンマド・ガンジー

↑Xに向かう

MVD,Shimitakeさん

↑AbadangoさんとTenuheさんが

野菜を買う。


ガンジー・あむさ・マンゴー・アユハ

↑超会議に来日するプレイヤー。

MJG,FOW,M2K,ZeRo

 シングルスが一段落ついて、ダブルスの残りが実施された。勝者側準決勝で、Nietono&Choco vs Mew2King&ZeRo である。ついにダブルディディーが日本の道を塞いだ。

 その間に、皆さんプレイヤーも各々で動き出した。会場最前方でダブルスが試合をする中、Shimitake さんはXの試合に向かった。今日はベスト12以上である。私は全く関与できなかったが、Shimitake さんは孤軍奮闘していた。

 また一方で、Abadango さんと Tenuhe さんが、食事スペースにサラダを買いに行った。アメリカに赴いた者であれば、いかにサラダが貴重か分かるであろう。サラダが視界をかすめただけで、二人は興味を持ったらしく、折半して購入していた。

 昨日よりも、朝9時の会場は閑散としていた。WiiUの一部プレイヤーしか来ていないのだから当然では有る。これから11時にかけて、WiiU勢の残りやDX勢が会場を埋め始めるのだが、今は特に平穏な状態にあった。スタッフの受付も今日はリラックスして、受付のパソコンを開く者達はイスで背もたれによりかかっている。昨日の大嵐とは一変して、順風満帆・快晴好天な大会前であった。

 本日午前9時に火蓋を切られるのは、WiiUダブルスである。

 Apex会場は、広大である。モノクロのホールの真ん中には何十台というブラウン管・モニターが並ぶ。横には屋台があり、食事できるテーブルもある。そして一番前にプロジェクターが2台並び、VGBCとTeam Spooky の配信台となっている。観客席はふんだんにパイプ椅子でセットされていた。

↑ダブルス敗者側

False&NAKAT vs Nietono&Choco

↑遂にD1と。

 この辺りから、会場は満員の体を示し始めた。通路を通るのが段々窮屈になってきた。昼を過ぎて14時ごろ。昨日の試合で敗れ、本日は完全に客と化したプレイヤーたちが、どかどかなだれ込んで来たのだろう。あれだけあった観客席は全て埋まり、コールがうるさくなってきた。

 False&NAKATがNietono&Chocoチームの対戦相手だった。False&NAKATはスマブラX時代からダブルスで名を馳せたニュージャージー地元のチームであったが、Chocoさんのフリップキックメテオが次々と決まり、観客を立ち上がらせていたのは気持ちよかった。ここで観客をあたためることが出来たが、Nietono & Chocoチームは次の敗者側準決勝:vs Mr.R & Cyve で惜しくも敗退してしまう。

 そのまま立て続けに、ダブルスは進行する。運営のOriは「大会が自力で走る」という表現を使っていた(生き残っているチームがもう少ないので、勝手に試合が進んでくれてスタッフが楽、という意味)。敗者側決勝を制し、MJG & FOW が最終決戦で ZeRo & Mew2King に挑んだ。MJG & FOW は今までも目覚ましい実績を残している。Apex2013から組み始めて、Apex2013 : 3位・Apex2014 : 5位である。今回から新作で、むらびと&ネスという珍しい組み合わせで出場していた。結果ダブルディディーのZeRo & Mew2King が優勝したが、この2チームは、ニコニコ超会議の「日米決戦」のために4月、来日が決まっている。

 2チームとも、日本で待ってます。

↑メインステージ横、

Shippuさん・aMSaさん。

↑Leffen vs aMSa

 訪日をかけたWiiUダブルスが終わり、Team Spooky の方の配信台はインターバルタイムに入った。64の本戦を配信する準備を始めていた。逆に、メインステージのVGBCでは、一度は見てみたかった好カードが呼ばれた。

 Leffen vs VGBC|aMSa である。aMSaさんのWiiUはいいところまで行ったものの終わってしまったが、まだDXが残っている。ここでまた配信台である。しかれど相手はあのLeffen。DX五神のうち、4人を既に倒しているスウェーデンのフォックス使い。前日でもSalty SuiteエキシビションマッチでChillinを相手に$1000マネーマッチを制した、話題の人物。昨年も4位まで上り詰めている、飛ぶ鳥を落とす新勢力間違いなしだ。

 Apex2015の会場でいま、スマブラDXのプレイヤーに「五神以外に強い人って誰?」とたずねたら、誰もが「LeffenかaMSa」と答えただろう。そのくらい実力があり、人気もある二人が激突したため、会場は刮目してプロジェクターを向いた。

 試合は2-0でLeffen勝利に終わった。実況のTophさんが言うように、LeffenはApex2012まではヨッシー使いであった。それも少し不利に働いたかもしれない。aMSaさんは、敗者側へ送られた。

↑Cyve & Mr.R vs

Nietono & Choco


Leffen vs Mew2King の光景。

↑aMSa vs Lucky

↑aMSa,LOKI,Shippu

 その次に、Leffenは勝者側でMew2Kingとぶつかった。aMSaさんの時も会場は盛り上がったが、このvs M2K の際のアナウンスの話題性はそれを勝った。Leffenが未だ倒していない五神の、残り一人がM2Kであった。もしこの試合、Leffenが勝てば、6人目の神になるかもしれない。いや、五神という構図自体が過去のものとなり、スマブラDXの新たな版図が塗られるだろう。こういう憶測の元、誰もが歴史の目撃者になろうと、こぞって観客席に集まった。あるものは空いたなけなしの席に座り、あるものは床に座り、あるものは立ち見に甘んじた。

↑Leffenが五神を倒していくことを表した画像。

http://www.reddit.com/r/smashbros/comments/2s6k8r/leffen_the_sixth_god/

 私は珍しく、Mew2Kingを全力で応援した。Mew2Kingは、今まで日本の敵として登場することが多かったから、応援する機会がなかった。しかしLeffenは業界指折りのイケメンであるため、単純にMew2Kingを応援しようと思った。会場もMew2Kingファンが居た。

“Let’s go Jason !!”

コールが3戦目に轟いた(JasonはM2Kの本名)。しかし善戦むなしく、Mew2Kingは敗れた。Leffenは歴史を刻んだ。2015年が楽しみになる試合であった。

 こうして、メインステージのDXは一旦止まった。ここからはWiiUシングルスベスト8が始まることとなった。で、DXはというと、録画台というものが設けられ、そこで敗者側の試合が進行した。aMSaさんはそこにいた。Zhu, Lucky といった大物を相手し、観客も野試合とは思えないほど集った。aMSaコールも沸いた。

 徐々にVGBCのメインステージも、WiiUシングルスに向けてセッティングが完成しつつあった。

 シングルスベスト8のプレイヤーは、配信台の舞台裏に呼ばれた。そこにはWiiUとモニタがセットされており、練習できるようになっていた。スタッフも揃っていて、運営体制ができていた。勿論、あのマッサージマンもいた。Nietonoさん・Abadangoさんはそこで座って待つことになった。私は運良く、通訳で合法的に舞台裏に出入り出来た。

 この時点で、19時は過ぎていた。20時だったかもしれないし、21時だったかもしれない。よく覚えていないが、夜はふけていた。昨日の長丁場につづき、今日も朝が長かったため、日本勢は応援組も含めてかなり疲労の色が顔にうかがえた。


 その間に、スマブラXの表彰式が行われた。先ほどShimitakeさんが試合を終えて日本勢のところに来て、「ベスト8でした」と報告してきた。Player-1, Mr.R, Seagull, Seibrik などの面々もいるなか、ドイツのCyveと並んでベスト8というのは、忘れるべからざる成績である。ベスト6はそこから、Vinnie, V115, Salem, MVD と並び、準優勝にNairo、そして優勝は…

↑配信台舞台裏。

NietonoさんとAbadangoさんが座る。

↑X優勝のAlly。

 X優勝は、Allyであった。スマブラ界を牽引してきたAllyは、2014年からプロゲーミングチーム Boreal に所属し、それを締めくくる形として、Apex2015のX優勝という結末がついてきた。少し予想外な決着である。

 優勝インタビューがあった。コメントを求められ、Allyは

「ずっとこうなって欲しいって思ってたんだよ。」

と、少し下を向きつつも首を横に振るあの感じで、答えた。


 このAllyの挨拶を以って、WiiUシングルスベスト8は開幕した。

↑Abadango vs Dabuz

↑その時の観客席。

DAMUさん・Pierceが混ざっている。

MVDが微妙にいる。

 敗者側から試合は進行した。日本勢は、Abadangoさんから出番が来た。相手はPL XFire Dabuz である。Dabuzはロゼッタ使いで、アメリカではかなり評価が高いキャラである。3DSの時代は、ロゼッタ最強説が跋扈していた程である。対するAbadangoさんは、満を持してパックマンでの配信台登場である。これには観客席、ちょっと「どよっ」という声が聞こえた。スマブラDXをメインにしている観客もいるため、WiiUでパックマン使いが残っていることを知らなかったわけだし、意外にも意外だったのだ。

 結果この試合は、3本中2本がタイムアップで終わり、Dabuzの勝利となった。アメリカでは、この結果「EVOのルールを5分にしよう」という論調が主流になってきた。

↑M2K vs ZeRo

の時の観客席。

↑DtN|Nietono vs

LLL Mr.R

 敗者側を4つ終えたため、勝者側がやって来た。まずはMVG Mew2King vs ZeRo である。Mew2Kingは本日DXシングルスも出場し長時間集中しているので恐ろしい体力である。ちなみにWiiU・DX双方のダブルスで優勝している。

 ここで Hoo Hah が始まった。

 Hoo Hah とは、ディディーの下投げ→空上の流れにおける、猿の鳴き声のことである。日本語話者なら「キィーキィー」と聞こえるだろうが、英語話者には Hoo Hah と聞こえる。ディディーコングレーシングでディディーを選ぶと “I’m Diddy Ho-hah” と叫ぶ所を思い出せば納得行くだろう。

 これがなぜ流行ったのかというと、Apex直前に開催された、最後のQualifier大会である Paragon にて起きた、Hungybox vs Player-1 が原因である。観客席にいたStaticMannyが、Player-1の使うディディーの下投げ→空上に合わせて “Hoo Hah !” と野次を叫び続け、Hungryboxはついにこれにキレてしまい、試合中にスタートボタンを押し、客席にいるStaticMannyに怒鳴りに行った。Hungryboxはスタートボタンを押したため、反則で負けとなり、これで3本取られたことになったためトーナメントからも敗退した。

(参考) https://www.youtube.com/watch?v=yB-6oRB4ABo

その後HungryboxとStaticMannyは和解し、WiiUディディー戦での下投げ→空上のコンボに対して野次馬は誰もが “Hoo Hah” と叫ぶようになった。

 Mew2King vs ZeRo でも、この傾向が顕著に見られた。会場はディディーミラーでガンガン叫び、動画にも客の Hoo Hah ボイスがふんだんに入っている。途中ZeRoが周りのコールに答えてCFを出す場面もあったが、最後は猿でしっかり締めた。(なお、実況のSkyによると、ZeRoがApex2015で1ゲーム落としたのはこのCFでの試合が初であった。)

 勝者側もう1試合は、DtN|Nietono vs LLL Mr.R である。

 嘗て、私にとってこの二人は、画面の向こうの伝説だった。スマブラXの頃、私はスマブラ業界を全然知らなかった。ある日動画を探していたら、Nietonoさんの最強オリマーを見つけて、またドイツ語の動画で派手なMr.Rのマルスを見つけた。暫く経って、Apex2012が迫る。海外勢があげた動画を見たら、なんとこの二人がマネーマッチしているではないか。そしてApex2012本番で、NietonoさんがAllyを倒し、床にあぐらをかいてプレイしていたNietonoさんが勝利の瞬間に飛び跳ねる姿が画面に収まっていた。「ああ、大会って、こんな盛り上がり方するんだ」と憧れた。ゲームって人の有機的な繋がりがあるんだという実感は自分の初心だし、今も忘れていない。そして大会に行こうと思った。私はApex2012以降、オフ大会に行くようになった。その大会:SRBTで、Nietonoさんに声をかけてもらってびっくりしたのも、未だに覚えている。

 だから、Mr.Rは伝説だったし、Nietonoさんはその上をゆく英雄だった。3年が経って、二人は共にゲーミングチームのプロプレイヤーとなっていた。この二人の試合を、Apexの舞台で見られたのは僥倖であるし、縁を手繰り寄せてその僥倖まで至ることが出来たのも、まさにオフ大会の「人の有機的な繋がり」である。Apex2015で得られた一番の感動だと思う。

 このシークミラー、Nietonoさんは敗れた。

↑6WX vs Nietono

↑配信台。

VGBC|GimRの配信はノーパソ。

 再び舞台裏で待つこと暫く。トーナメントに残っていた日本勢はNietonoさんのみで、孤独の待ち時間だった。ここまで戦って、さぞや疲れていたことだろう。自分の疲れを鑑みると、Nietonoさんの疲労は推して測れよう。私はあまりに無力で、なにもアドバイスも出来るわけもなく、ただ立って配信台の試合を見ていた。そして敗者側で、Nietonoさんの出番が来る。相手は、Chocoさんを倒した宿敵、フィラデルフィアのソニック使い:6WXである。

 眠さ。客の叫び声。大会の光景が、幻想的な夢に見えた。Nietonoさんが戦っている配信台が、すごく遠い所にあるように感じる。試合は3本先取で、5試合目までもつれこみ、長い20分だった。

 勝ったのは6WXだった。試合が終わると、Nietonoさんは椅子に向かって大きく背中を反らせた。握手を終えて、舞台を降りてきたNietonoさんの所に、私はちょうど待っていたのだが、精一杯出てきた言葉が、

「おつかれさまでした。」

だった。


 様々なプレイヤーが、Nietonoさんの日本での試合を見てきたと思う。その関連で、今後時間が経ってからApexに於けるMr.Rや6WXとの動画を見て、「大会に行きたい」とモチベーションが湧く日本プレイヤーも出てくるはずである。試合を見て得るものがあるプレイヤーは、絶対にいる。そういうプレイヤーが出て、業界は人口が増えて利益を得る。そしてまた新しい人が来る、または誰かがより多くの動画を見るようになる。こういう側面を見れば、試合をするプレイヤーというのは誰もが、誰かになにかを与えられる存在なのだろう。

探す帰り道。

 日本勢は全員、客席についた。残された試合は、勝者側決勝・敗者側準決勝・敗者側決勝・最終決戦、の4つである。私は「もう試合見ないで、ちょっと寝てもいいかな」とか思い始めていた。

 そう油断した私に、ムハンマド・ガンジーが話しかけた。

「あー今日帰りのバス無いって。あと明日吹雪警報だって。」

…この簡単な一言で、私の意識は覚醒した。明日の吹雪は置いといて、まず今夜の帰り道が無い。急ぎ、受付に行き、Yinkに話しかけ、状況をたずねた。雪で帰りのバスが無いのは事実らしい。それに、今もう22時である。あらゆる交通手段は諦めた方が良さそうだった。

 なにか方法が無いか。誰かClarion Hotelに帰る人がいないか。私はとりあえずそこを探して回った。ただ、有力な情報は得られなかった。ここまで来て、私は路頭に迷いたくはない。

↑GF,

ZeRo vs Dabuz

↑優勝の瞬間

↑表彰式

↑優勝したZeRo,

トロフィーをおさえるVex,

そして後ろのHungrybox

 考えるのも疲れたので、ひとまず、始まった最終決戦を見た。ZeRo vs Dabuz である。Dabuzはオリマーをくりだした。既に敗者側で、DabuzはMew2Kingのディディーを相手にオリマーを出していた。オリマーは現状レアキャラで、使っている人を中々見かけなかった。しかしDabuzはX時代、アメリカ最強オリマーであり、今はメインこそロゼッタではあるが、対ディディー用にオリマーを控えていたようだ。

 試合は3本先取。そして3本で終わった。Apex2015スマブラWiiUシングルス、優勝したのは、ZeRoだった。スマブラ界は2014年で大きく成長し、数々のプロを産んできた。皮肉にも、この大会をものにしたのは、スポンサー無しの19歳だった。

 また、忘れてはならないのは、Dabuzが予選開始時、失格で敗者側に送られたという事実である。敗者側を駆け上がってきたものの、拳を交えて敗れた相手はZeRoしかいない。このDabuzもまた、最前線を一馬身差で走るトッププレイヤーである。

 

 こうしてApex2015の戦はなかりけれ。スマブラWiiU、初の世界大会は、ディディーの飛び六方で幕を閉じた。


シングルスベスト16結果:http://apex2015smashwiiu.challonge.com/singles

全Challonge : http://apex2015smashwiiu.challonge.com/

 

↑WiiU後。

練習するaMSaさん&Leffen

↑aMSa vs

KirbyKaze

 そのまま、私は帰り道の模索を再開した。一方で、メインステージはDXに戻る。現在22時。ここから王者を決めるまで進めるつもりらしい。

 私が帰り道を探していると、遠くからヨッシーのふんばる声が聞こえてきた。aMSaさんの試合である。カナダの国旗が画面に見えたので、相手はKirbyKazeである。今回Shippuさんのダブルスパートナーだった相手だ。

 aMSaさんは、KirbyKazeシークを落とした。これで、aMSaさんは世界の全シークを基本的に倒したことになった。やはり、aMSaさんの試合は観客が盛り上がる。1ストック落とすたびに喜ぶアメリカ勢は分かりやすかった。また、Apex2015のメイン配信を手がけているのはVGBCだが、今やVGBCの最強プレイヤーとなっているaMSaさんには、界隈の特別な期待があったのだろう。

 その試合の最中、私はふと西海岸勢が立ち見しているのを発見した。LarryとかBAMとかDustinとか、大会1日目にマネーマッチしていたあのメンバーである。今朝はバスも一緒に乗った。別れの挨拶のついでに、帰り道なにか知らないか訊いてみた。

↑左がLarry,

中央がBAM

 BAMは、すぐに答えてくれた。

「あ、5分後に俺がタクシーアプリで呼んだタクシーが来るから、お前らの内4人はまずそれに乗れ。」

と。あまりに厚遇されたので、感謝を込めて

「さんくす!ホテルまでいくら?」

とたずねた。

 「いや、金は出さないでいい。」

こうまっすぐに答えられた。私は納得がいかなかったので、なんどもたずねたが、BAMは頑なに断り続けた。

「日本勢はここではゲストなんだ。お前たちがいるからApexは成り立つ。これはアメリカ勢からの好意だ。もう2台タクシーを呼ぶから、そのうち1台でお前らの残りが乗って、最後の1台で俺達が乗ろう。」

真剣な表情で、こう説得された。私がもっと上手く言い訳をして、タクシー2台分の金まで出させるようなことは避けられれば良かったのだが、完全に疲れていてなにも思いつかなかった自分を呪う。疲れていなくても、思いつかなかったかもしれない。とにかく、私が駄目だった。

 私はWiiU日本勢を集めた。部隊は2つに分かれて、たしかAbadango, Nietono, Choco, Shimitake の4人を先のタクシーに乗せることにした。そして、日本のDX勢に「先に帰ります」と声をかけた。申し訳なかったが、WiiU勢が確実に夜の内にホテルへ帰るためにはこうするしかなかった。

 ステージでは、aMSa vs Mango という試合が始まろうとしていた…。


 タクシーを待つために、BAM, Larry と日本勢は会場を出た。入り口の扉を開けると、外は当然真っ暗だし、大粒の雪が降っていた。眼鏡にとって邪魔になるくらいの雪だった。そして静かだった。会場内は人の熱気と、怒号でたえず刺激にさらされるが、外はただ白い景色が広がっているだけで、雪を踏む足音が聞こえることにあまりのギャップがあった。私達が会話する声がやたら大きく聞こえる。

 そんなに待たずして、タクシーはやってきた。1台乗せて、また1台。外で待っていると、話もあまりしていないのにあっという間だった。

「すまない。本当にお前たちのお陰で日本勢は帰れる。」

感謝の言葉を述べて、去り際に、私は荷物の中にあった最後のおみやげを、LarryとBAMに渡した。タクシーのドアを閉め、暖房でぬくぬくしていた車体は走りだした。最後までLarryとBAMの手をふる様子が見えた。会場の最後の記憶が、このタクシーからの光景である。繰り返して言う価値があると思うが、タクシーを2台も出してくれたBAMには本当に感謝している。

 Apexの最後に、命の恩を受けてしまった。逆に、新たな絆を得られたとも解釈できるし、これから地道に機会を探して、BAMに恩返ししていくつもりだ。


 帰りのタクシーは、かなりゆっくりだった。高速道路には雪が積もっていたし、車がいつもどおり飛ばせないからだ。その中で、意外と眠らなかった。中で我々が何を会話したか覚えていないレベルで眠かったが、眠らなかった。

 ツイッターで、大会の情報が入ってきた。発つ直前に見たカード:aMSa vs Mango だが、これは5戦目までもつれていた。

 5戦目のポケスタ。フォックスがヨッシーを遂に捉え、EVO2連覇の王者:Mangoは勝利する。Cloud9という名門チームに所属するMangoは、その教祖のような風貌もあいまって、非常にアメリカファンの多いプレイヤーである。にも拘らず、試合後に聞こえてきたのはスタンディングオベーションでのaMSaコールだった。

 なにをしてきたら、ここまで来られるのだろうか。名声を得ること。それはたぶん、人類の永遠の題目である。

 aMSaさんは、これでDX5位・WiiU9位。Mew2KingがDX9位・WiiU5位であることを参照すると、この二人が現在「世界最強のマルチスマブラー」だと言えよう。


 事の顛末を記す。DXの最終決戦は、[A]rmada vs EG PPMD となった。敗者側を上がってきたArmadaは、ご存知ピーチを駆ってApexを2連覇したスウェーデンの怪物。現在はAllianceというチームに入っている。スウェーデンは最近、国をあげてe-sportsに取り組んでおり、Allianceはヨーロッパを縄張りとするスウェーデンの超名門クルーである。(日本のスウェーデン大使館でも、最近ゲーム交流会を頻繁にやっている。オール英語なのが玉に瑕。)一方勝者側から南面するは、Apex2014王者PPMDである。昨年までDr.PeePee と名乗っていた男だ。現在はなんと、かのEvil Geniuses所属である。

 WiiU界は、X界から引き継いだ部分が大きい。そこでX・WiiU界を包括して見ると、上位に来るメンバーが不安定であった。プレイヤー相性が無視できないほど大きいのだろう。最近のZeRoのような例外もあるが、ベスト6の模様になると、DXの “五神” ほどには固定されていない。DXにも勿論プレイヤー相性があるだろうに、何年も幾歳も、絶対に上位に来るメンバーが同じというのは、一体どういう実力をしていたらそうなるのだろうか。まさに Cloud 9(神に一番近い)である。Armada vs PPMD という最終決戦は、界隈が変化・成長しようと、玉座は譲る気が無い神達の意思表示にも見えた。

 優勝はPPMDだった。

↑ホテルの正面からの景色。

 …そして我々WiiU勢を乗せたタクシーは、ホテルに着いた。まだ雪は降っていた。ホテルは完全に静まっている。流石に全員疲れている。2台目のタクシーに乗った我々は、後から部屋に入ったわけだが、前半組は既にベッドの中に入っていた。

 私もなにもせずに、さっさと寝る体制に入った。今日も生き延びることが出来た。アメリカ勢の助けがなければ、出来なかったことがあった。こうして無事帰ってきたのも、アメリカ勢の助けの御陰である。

 おやすみ。

 
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